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▲デメイの「T-BONEコンチェルト」を演奏するベルリン・フィル首席奏者のオラフ・オット(Olaf Ott)氏 |
プロのシンフォニックバンドとして長い歴史を持つ東京吹奏楽団。経験豊富な汐澤安彦氏の棒の下、今回も定評ある落ち着いた響きで作品の美しさを語ってくれた。
■ヴェルディ「運命の力」序曲
オリジナルでは管に弦の不安のテーマが混ざり「希望の中に運命の不安が湧き上がる」ような美しさが特徴である。既存のアレンジではこの部分が管楽器同士で単なる不協和音として耳障りに聞こえてしまいやすい。しかし東吹の演奏では原曲の雰囲気をそのままにテーマが交錯して発展していく様がよく現れていてた。メンバーがオーケストラでの演奏経験も豊富なことがこうした選曲で成功する秘訣だろう。中間部の前、弦全員で弓をあわせて弾ききるような表現を吹奏楽でどうするか?オーケストラに近づけるか別の表現でいくか?など踏み込めばアレンジ作品もより興味深いのではないか。
■川崎 優「吹奏楽のための組曲」
東京吹奏楽団の10周年時の委嘱作品。セクションごとの響きが際立って親しみやすい曲想。学生バンドなどでトレーニングにもなりコンサートで観客も楽しめるということでもっと取り上げられてもよいと思う。
■ハリウッド万歳!、アンダーソン曲集、ウエストサイドストーリー
吹奏楽のパワーや機動力が存分に活かされたこれらの曲目。逆にいえば単なるショーに陥りやすいが東吹の演奏は決してそうはならない。メロディラインを大切に常に美しい響きが保たれる。そしてキレのある明快な打楽器パートに観客はワクワク。クラリネット・キャンディのソリはハイテンポでも異常なほどそろっていて余裕。名手ぞろいを実感した。
■ヨハン・デメイ「T-BONEコンチェルト」
ベルリン・フィル首席奏者のオラフ・オット(Olaf Ott)氏をソリストに迎え、世紀の名演になった。この曲はトロンボーンの朴訥でダイナミックなキャラクターと曲想がマッチし、1996年の初演以来世界各地で演奏され親しまれている。
オット氏は柔らかく輪郭のはっきりした音色。Tuttiでも自然に浮き上がりしなやかで、音量のためにニュアンスを犠牲にすることがない。このような効率のよい音色は今後の日本のトロンボーン界でも理想的な選択肢の一つになるに違いない。
吹奏楽は倍音構造が似た楽器が多く、アレンジも必要以上に音が重ねられていて個々の楽器の個性を相殺してしまう傾向にある。そんな中でデメイのコンチェルトはいろいろな組み合わせの小編成アンサンブルやチェンバロが使用されるなど非常に多彩。明らかに新しいブラス・サウンドを追求していて新鮮だった。東吹も数少ないプロの吹奏楽団としてこのような今後の吹奏楽界の指標ともなるべき選曲やオリジナル・アレンジ、さらに他の楽団とは違う「東吹ならではの何か」をもう少し示してもよかったのではないかと思う。
アンコールではオット氏がチャールダーシュを演奏。この人は音楽を表現することを本当に楽しみ、それを必ず観客と共有しようという強い意志を持っている。東吹もその意図を感じコンチェルト以外の曲目でも表現しそれを伝えることの喜びに満ちていた。観客を含めてすべての人が暖かい気持ちになる。そんなコンサートだった。そういう意味でオット氏は演奏以外にもコンサート全体に絶大な精神的貢献をしたといえるだろう。それこそがまさにソリストでありベルリンフィル首席であり、真の音楽家の姿なのだろう。
【東京吹奏楽団のCD】
■エクウス~エリック・ミーツ・東吹~/
東京吹奏楽団/エリック・ウィテカー・指揮
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1606/
■時任&東吹~スパーク、チェザリーニ、パーシケッティ~/
東京吹奏楽団/時任康文・指揮
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1607/
■序曲「1812年」/Ouverture "1812"汐澤安彦・指揮/東京吹奏楽団
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1605/
【T-BONEコンチェルト収録CD】
■スカンジナビアン・コネクション/トルン聖ミカエル吹奏楽団 ほか
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0051/
■カンティクルズ~ヨハン・デメイ
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1796/
(2009.01.26)
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