Tokyo Wind Symphony Orchestra 60th Anniversary

第58回定期演奏会 

Tokyo Wind Symphony Orchestra 58th Periodic concert

2010年6月4日(金)
すみだトリフォニーホール 大ホール

アクセスマップ LinkIcon

開演19:00 開場18:20 

岩村 力が東吹に描く哀
Sergei Prokofiev/Romeo & Juliet

指揮:岩村 力

岩村力氏スペシャルコメント動画




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プログラム
D.ウィルソン:ショートカット・ホーム
Dana Wilson:Shortcut Home

福島 弘和:百年祭 
Hirokazu Fukushima:A Centenary Celebration

Aラバウンティー:ル・サンティエ 
Anthony LaBounty:Le Sentier

J.B.チャンス:朝鮮民謡の主題による変奏曲 
John Barnes Chance:Variations on a Korean Folk Song


S.プロコフィエフ/バレエ音楽「ロメオとジュリエット」より
Sergei Sergeevich Prokofiev:”Romeo and Juliet” Op. 64, ballet in four acts

 モンタギュー家とキャピュレット家
  The Montagues and The Capulets

 少女ジュリエット
  The Young Juliet

 マドリガル
   Madrigal

 朝の踊り
  Morning Dance

 仮面
  Masks

 タイボルトの死
  The Death of Tybalt

 ジュリエットの墓の前のロメオ
  Romeo at Juliet's Grave

第58回定期演奏会

岩村 力

この日の演奏はNHK-FM「吹奏楽のひびき」で
生収録され同番組内で放送されます。


第1回
8月 8日(日)朝8:15〜9:00
8月13日(金)午後4:30〜5:15(再放送)


第2回
8月15日(日)朝8:15〜9:00
8月20日(金)午後4:30〜5:15(再放送)
吹奏楽のひびきのサイトへ LinkIcon

全席自由席(一部賛助会員用指定あり)
一般   :¥4,000-
大学生  :¥3,000-
高校生以下:¥2,000-
当日券は各¥500-増


ホームページ販売特別割引
一般 3,600円 
大学生2,700円 
高校生以下1,800円

主催:社団法人 東京吹奏楽団 
協賛:株式会社グローバル
後援:財団法人 日本音楽教育文化振興会・日本管打・吹奏楽学会

コンサートの聴き所

Hearing place of concert

 今年の春は暖かくなったかと思えば、寒さがぶり返すような落ち着かない天候が続き、体調管理も大変だったと思います。それでも近頃は東京近郊はだいぶ暖かくなり、汗ばむような日もありましたね。そんな中、私たち東京吹奏楽団は5月半ばから、小中学校音楽鑑賞教室のため、長野県に演奏旅行に来ています。こちらはまだまだ寒いです。しかし、子供達の明るい笑顔や大きな拍手に勇気をもらい、張り切って演奏をしています。

 そして6月になれば、いよいよ定期演奏会です!

 今回のプログラムは原点に回帰し、オーソドックス且つ、意欲的な作品を取り上げました。

 新進気鋭、D.ウィルソン「ショートカットカット・ホーム」。日本の生んだ鬼才、福島 弘和「百年祭」。躍動する魂、A.ラバウンティー「ル・サンティエ」。若くして夭折してしまった天才、J.B.チャンス「朝鮮民謡の主題による変奏曲」。これらの曲目は、我が東京吹奏楽団選曲委員会が選りすぐり、自信を持ってお届けする秀曲ばかりです。
ご堪能あれ!

 そして「ロメオとジュリエット」です!イングランドの生んだ偉大なる文豪であり、稀代の劇作家ウィリアム・シェイクスピアによる戯曲です。ギリシャ神話「ピュラモスとティスベ(桑の木)」を元にして書かれ、初演年度については諸説がありますが、1595年前後と言われています。

 シェイクスピアの作品では四大悲劇(ハムレット、マクベス、オセロ、リア王)に見受けられるように、登場人物の性格が悲劇を引き起こすという顕著な特徴があります。これに対してロメオとジュリエットでは登場人物の性格よりも、周囲の状況や偶然などの運命と呼べるものが、両者を悲劇的結末へと導いて行きます。このやるせなさが、この作品を世界中の人々が愛してやまない事に繋がるのではないでしょうか。

 対立する二つのグループと、それに翻弄され悲しい結末へ至る恋人達という、時代や文化背景を越えた普遍性のあるストーリー。現代においては映画などの分野でも、題材として取り上げられています。
 映画の最も新しい作品は、1996年に製作されたアメリカ映画でレオナルド・デカプリオが出演しています。懐かしいところでは1968年のイタリア映画、レナード・ホワイティングとオリビア・ハッセー出演で、日本でも大ヒットをしました。オリビア・ハッセーの美しさ!素晴らしい映画でした。

 レナード・バーンスタインが音楽を担当したミュージカル「ウエスト・サイド物語」、これも「ロメオとジュリエット」を題材としています。
 日本でもテレビドラマとして製作されていて、木村拓哉出演「映画みたいな恋したい」。滝沢秀明、長澤まさみ出演の「すれちがい」などがあります。

 ここからが音楽における「ロメオとジュリエット」です。ベルリオーズが交響曲として、チャイコフスキーが序曲として作曲をしています。しかし、大曲となるとやはりプロコフィエフでしょう。

 ロシア革命の後アメリカ、フランスと拠点を移して来たプロコフィエフでしたが、望郷の念忘れがたく、帰国をして最初に取り組んだ作品が、バレエ音楽「ロメオとジュリエット」でした。結末をハッピーエンドにして文学界から非難を受け、書き直しをしたり、リズムが細かすぎて踊れないとバレリーナから文句を言われたりと初演にこぎつけるまでは惨憺たるものでした。しかし、初演後は各界から絶賛を受けます。

 バレエ音楽に新しい風を吹き込み、その斬新で繊細な世界観は現在に至るまで、他の追従を許していません。最近、耳にするものの中では「のだめカンタービレ」でミルヒ事、シュトレーゼマン(竹中直人、最高!)の登場シーンに印象的なパッセージが使われていますね(^O^)

 今回は東吹団員一同、気合いを持って、演奏会に臨んでいます。皆様のご来場を心よりお待ちしていますm(__)m

クラリネット奏者・楽団委員長 星野 均

曲目解説  

Number decoding

ダナ・ウィルソン:ショートカット・ホーム

 作曲者のダナ・ウィルソンは1946年に米国のオハイオ州で生まれました。6歳から音楽の勉強を始め、バウドウィン大学、コネティカット大学、イーストマン音楽学院で作曲を学び、現在はイサカ大学で作曲科の教授を務め後進の指導にあたっています。彼の作品は多岐にわたり、米国の様々なオーケストラで演奏されています。主な吹奏楽作品としては、《ピース・オブ・マインド》、《シャカタ、歌によって世界は生まれた》などがあります。《ショートカット・ホーム》について、作曲者は次のように述べています。「この作品は各セクションにスポット・ライトを浴びせ、躍動感に満ち精巧に作られたファンファーレになっています。様々なジャズのスタイルで書かれていますが、音楽は終点の“ホーム”であるハ長調の和音に向かって、常に滝のように流れ落ちるようになっています」

野本和也

福島 弘和:百年祭

 福島弘和氏は1971年群馬県前橋市生まれで、作曲家としては勿論オーボエ奏者としても活躍されています。作品は大きな編成から小さなものまで、技術的にも困難なものから演奏しやすいものまで膨大な数であり、今現在吹奏楽界で最も注目されている作曲家の一人です。
「百年祭」は、創立百周年にして少子化に伴い閉校しなければならない奈良県立城内高校の委嘱により2005年に作曲されました。

 初演時には副題に「10人の奏者のために」と付され、同高校最後の3年生10人で演奏されました(今演奏会では改訂版により若干のパート増)。
曲はリリカルな木管の序奏にはじまり、金管に受け継がれ柔らかなサウンドを構築していきます。
やがてテンポも上がり、徐々に高揚感、緊張感を増しながらキレのあるリズムを展開していきクライマックスを迎えます。

 終結部では再び冒頭のテーマがあらわれ、氏の言葉を借りれば「もうすこしで終わってしまう100年の時の流れ(自分の事に置き換えて、ひとつの物事)を噛み締めながら演奏していただければ」とあるように物悲しく、又次の時代への期待、希望を含みつつ終曲します。

佐藤信之

アンソニー・ラバウンティ:ル・サンティエ

 ネバダ大学ラスベガス校(UNLV)准教授、アンソニー・ラバウンティは2005年6月、同大学ウインド・オーケストラと共にフランス・リヴィエラの音楽祭に招待されました。この公演中に彼が家族と滞在した、地中海そばの美しい町での思い出からインスピレーションを得て、「ル・サンティエ」は作曲されました。

「経路」または「道」とも翻訳できるこの曲では、フランス中を旅するイメージが描かれています。プロバンス特有の牧歌的な雰囲気から始まり、吹奏楽らしさを存分に発揮した華やかなサウンドで締めくくる作品となっていますが、フランスの鉄道発着の合図音や賛美歌、バッハのカンタータ140番のモチーフ等が随所に使われています。

田中靖之

ジョン・バーンズ・チャンス:朝鮮民謡による変奏曲


 世界中の多くの吹奏楽曲の中で、不朽の名作といわれているこの作品は、かつて朝鮮戦争に従軍した経験を持つアメリカの作曲家チャンスにより、戦後の回顧の意味を含め、現地で耳にした朝鮮半島の民謡『アリラン』に基づき1965年に作曲されました。親しみやすい哀調を帯びたメロディーは誰もが一度は耳にしたことがあるはずです。チャンスはその『アリラン』の主題を、みごとなオーケストレーションによって5つの様々なリズムや形態にバリエーションさせました。プロの打楽器奏者として活躍していたこともあり、打楽器の扱いが大変旨く、その活躍も聞き逃せません。
チャンスは他にも『呪文と踊り』などの名曲を残しましたが、40歳の若さで事故死しました。

主題 - Con moto
 最初は、クラリネットの低音域で『アリラン』が穏やかに演奏され、様々な楽器へと受け
 継がれる。

第1変奏 - Vivace
 主題がゴングの合図と共に16分音符の速いパッセージで木管楽器とテンプル・ブロック
 (木魚)が演奏し、全体のユニゾンに進んでゆきます。

第2変奏 - Larghetto
 ゆったりとした変奏。オーボエの主題の反行型(音の上下を入れ替えたもの)によるソロが、
 フルート、ホルンに受け継がれ、最後はトランペットで演奏されます。

第3変奏 - Allegro con brio
 6/8拍子の行進曲風。トランペットが主題を8分音符で変奏します。木管がこれを反復し、
 行進は最高潮になります。最後は全音音階によって下降して終わります。

第4変奏 - Sostenuto
 3/2拍子の非常にゆったりとした変奏。木管によって主題が演奏され、金管がコラールで
 応えます。

第5変奏 - Con Islancio
 3/4拍子。打楽器によるソロに、ピッコロ、フルートが続き、主題の後半部分を演奏する。
 さらに金管が続く。ヘミオラのリズムが特長。次第に盛り上がってゆき、最後のコーダは
 第1変奏の16分音符のパッセージが演奏され、雄大な金管によるアリランの主題で盛大に
 幕を閉じます。

西尾貴浩

セルゲイ・ プロコフィエフ:「ロメオとジュリエット」組曲より

 イギリスの生んだ偉大なる文豪、ウィリアム・シェイクスピア(1564〜1616)の名高い悲劇「ロメオとジュリエット」(1594年頃執筆)。ルネサンス時代のイタリア、ヴェローナを舞台に、モンタギュー家のロメオと宿敵キャピュレット家の娘でジュリエットの悲恋を描いた戯曲です。

 彼の37の戯曲の中で、最も作曲家たちに取り上げられる機会が多く、ベルリオーズ、グノー、チャイコフスキー、近代ではバーンスタインなど、思いつくままに挙げても名曲が並びますが、セルゲイ・プロコフィエフ(1891〜1953)のバレエ音楽「ロメオとジュリエット」は、その中でも最も親しまれている作品と云えるでしょう。

 1917年ロシアが革命の嵐につつまれ、プロコフィエフは1918年に祖国を離れ、1922年までは主にアメリカで、1923年からはフランスを拠点にして活動を続けます。しかし祖国を持たない音楽家としての不安や、当時の楽壇を風靡していた実験的なモダニズムへの疑問から、祖国復帰を決意し、1935年にソヴィエトに戻ります。「ロメオとジュリエット」は祖国復帰後のソヴィエトで書いた最初の作品です。
 
 しかし、この作品はなかなか初演の機会に恵まれませんでした。あまりに洗練された音楽に戸惑った劇場側からは、これでは踊れないと契約を破棄され、当初のストーリーがハーピー・エンドに終わる設定であったため、文学界を中心に論議を引き起こした事も原因となりました(すぐに原作通り、悲劇の幕切れに改められます)。紆余曲折の末、バレエとしての初演は1938年チェコスロバキアにおいて行われ、祖国での初演は1940年レニングラードのキーロフ劇場でようやく実現しました。

 本日は組曲全20曲中、珠玉の7曲をお送りします。

1)モンタギュー家とキャピュレット家
 両家の対立を暗示している。

2)少女ジュリエット
 舞踏会が始まる前の控えの間でのジュリエット。彼女の愛らしさをおどけた表情で描い
 ている。

3)マドリガル
 キャピュレット家の舞踏会で、ロメオとジュリエットが出会う場面。ゆったりとした音
 楽の中に2人の心の動きが表れている。

4)朝の踊り
 ヴェローナの町人の朝のにぎやかな様子を描いている。

5)仮面
 キャピュレット家の舞踏会に忍び込むロメオたち。特徴的な力強いアクセントが気分を
 高めて行く。

6)タイボルトの死
 親友のマキューシオを殺されたロメオがタイボルトと決闘の末、彼を殺してしまう。劇
 的に高まる曲。

7)ジュリエットの墓の前のロメオ
 清らかな響きと不気味で力強い死の主題が対比的に置かれる。2人の愛の主題も登場する。

星野 均

コンサートレヴュー

Concert Review

作品に応じたきめ細かな演出が光ってた。


 6月4日すみだトリフォニーホールにおいて、今年で創立48年を迎える東京吹奏楽団の第58回定期演奏会が開催された。今回は、指揮者に岩村力を迎え、プロコフィエフの《口メオとジュリエット》を中心に、ウイルソン、福島、ラバウンティ、チャンスと意欲的なプログラムが並んだ。とりわけ、作品の規模に応じて編成をきめ細かく変える演出(本来は当たり前のことであるが大成功で、金管楽器を2つに絞った福島弘和の<百年祭>から、大編成のプロコフィエフまで、作曲家(編曲者)が望んだ響きを志実に再現しようとする姿にプロのこだわりを感じた。

 前半のプログラムは、各楽器のセクションをフィーチャーしたジャジーなリズムの面白さが楽しいウイルソンの(ショートカット・ホーム》、編成を絞ることで室内楽的な小編成バンドの可能性を示した福島弘和の(百年祭》、もはや定番の名曲と言っていいチャンスの(朝鮮民謡の主題による変奏曲)など、どれも興味深いものばかりであったが、とりわけ目を引いたのはラバウンティの《ル・サンティエ)の楽器用法。たった2挺であるがチエロを加えた効果は想像以上に絶大で、ユーフォニアムやサックスと融合してバンド全体に潤いを与えているのには驚き。ヨーロッパや他のアメリカの曲にもチエロを加えたオリジナル曲はあるので、他のバンドでも積極的に導入してほしいと思う。

 休憩を挟んだ後半は、ソプラノサックスまで加わる大編成によって、プロコフィエフの《ロメオとジュリエット)組曲(淀彰編曲)からフ曲が披露された。前半もそうであったが、まるで管弦楽団相手に振っているような岩村の棒は、彫りの深い音楽を引き出すことに成功。東欧も繊細かつダイナミックなサウンドでその棒に応えていた。随所に現れる各楽器のソロもすばらしく、とりわけ先頃入団した松居洋輔の安定して暖かいコルネットソロは光っていた。

 ただし、あまりにも管弦楽に迫る演奏(と編曲)だったので、逆に弦楽器の者が恋しくなってしまったのも事実。こうしてプロの演奏家によって管弦楽と肩を並べる演奏が可能になった現在、編曲作品を演奏する際、管弦楽にはない色合いをアピールする工夫がもう少しあってもいいのではないかと考えされられた。

 アンコールは、ソビエトつながりのハチャトゥリアンの<仮面舞踏会>ワルツとプロコフィエフ<
行進曲>。珍しいプロコフィエフの吹奏楽オリジナル曲である後者が聴けたのも収穫であった。

 来年には記念すべき第60回定期を迎える東京吹奏楽団。なお、この演奏会の模様は8月8&15日のNHK-FM「吹奏楽のひびき」で放送されるので、要チェックだ。